本事例は、不動産投資を勧められてマンション2室を購入した原告が、消費者契約法4条による取消しなどを求めた事案において、売主である宅建業者が、客観的な市場価格を提示していないことや非現実的なシミュレーションを提示したことなどが消費者契約法にいう不利益事実の不告知に該当するとされた事例である。

消費者契約法にいう不利益事実の不告知が認められたものとしては、隣接地に3階建て建物が建つ計画があることを説明しなかった事例(東京地判H18.8.30)等周辺環境・近隣関係に関する事例はいくつか判示されているところであるが、本件は不動産の価格について判示したものとして実務上参考になると思われる。(RETIO. 2012. 10 NO.87)

不動産投資を勧められて2件の不動産を購入した買主が、重要事項の不告知、断定的判断の提供等をされたと主張し、売買契約取消しなどを求めた事案において、売主は客観的な市場価格を提示しておらず、非現実的なシミュレーションを提示し、月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させるなど、消費者契約法にいう重要事項について不利益となる事実を故意に告げなかったため、買主はそのような事実が存在しないと誤認し、契約を締結したものであるから、消費者契約法4条による取消しが認められるとした事例(東京地裁平24年3月27日判決 容認 ウエストロージャパン)

 

1事案の概要

⑴ Xは、会社の同僚Aから、マンション投資の話を持ちかけられ、平成21年2月12日、Yの担当者B及びCと会い、マンション投資の話を聞いた。BとCは、マンション投資は家賃収入があって、それを住宅ローンの返済に充てるので損をしないことを強調した。

⑵ 同月17日、Xは、C及び上司Dと会った。その席で、物件1は通常3130万円であるが、会社に無理言って2840万円で押さえていること、頭金、毎月のローンの金額、家賃収入などから月々 7359円の保険と同様であり、仮に将来売却する場合、現在の物件価格から売却査定価格が10%低下したとしても、ローン残債を返して利益が出ることなどを説明され、急かされるままに仮契約を交わした。

⑶ 同月24日、D及びCと会い、Dから、物件1は高台にあって、場所的には良いところであると言われ、Xは、小遣いで何とかできるものと誤信し、契約1を締結した。

⑷ 同年2月末頃、XはDらと会い、物件2を紹介された。その際、Dは、物件2はNTTの関連会社の借上げ物件なので空室になる心配はなく、場所的にも良い物件であり、通常2300万円のところ、特別に2100万円で押さえていること、シミュレーションを見せ、頭金、住宅ローン、家賃収入などを比較して月々 8757円の持ち出しであることなどを説明した後、直ぐに売れてしまうなどと購入を急かした。その後、同年3月10日、Xは契約2を締結した。

⑸ 同年3月下旬頃、Xが他業者で簡易査定をしたところ、物件1が2000万円程度、物件2が1400万円程度とされ、その後、不動産鑑定士にも物件1が1860万円、物件2が1460万円と評価された。

⑹ そこでXはCに対し、売買契約を解除したい旨申し入れたが、Cはいま解約するともったいないなどと言って解約に応じなかった。

Xは、消費者契約法4条1項、2項に基づき、契約1及び2の取り消しを求めて提訴した。

 

2判決の要旨

裁判所は、以下のように述べ、原告の請求を容認した。

⑴ Yが提示した価格は、何ら根拠が示されていないことや簡易査定及び不動産鑑定書と比較して市場動静を加味したとしても、合理的な変動の範囲内にあるとは到底思われないことなどを考慮すると、適正な価格を反映したものとは言えない取引であったものと認める。市場適正価格は投資をする際の重要な事項と言わなければならない。その意味で、Yは、契約を締結する際の重要な事項について事実と異なることを告げたものと認める。

⑵ 「将来売却プラン」を見せたため、Xは不動産価格の下落が精々 10%程度であると誤信させられ、予想できない急激な不動産価格の下落がない限りいつでも売却できるものと誤信したこと、購入後中古マンション扱いとなるため、売却価格は分譲価格の6ないし7割となるところ、そのような説明をされておらず、いつでもローンの残債が処理できる価格で売却できると誤信したものと認める。

⑶ 「将来売却プラン」は、価格の下落が10%程度が最大限であるかのように示され、20%以上の下落等については何ら記載されておらず、かつ、投資の危険性を説明した形跡は見当たらない。また、同時期に示された書面は30年以上も同じ家賃を前提とし(※の中で家賃の変動があることを示唆している)、Xが関心を示していた毎月の支払が小遣い程度で収まるとの点においても同書面は誤認させる要素を多分に含んでいるものと認められる。したがって、重要な事項についてXに不利益となる事実を故意に告げなかったものと認める。

⑷ 融資申込が拒否されないように登記費用などについてYが負担することを秘すように指示し、他方、将来的に家賃収入が減ったり、入居者が見つからなかった場合にXの小遣いではローンの返済ができなくなることについて十分説明をしていなかったものと認める。

⑸ Yは、Xに対し、契約1及び2の締結の際、重要事項である物件の客観的な市場価格を提示していないこと、家賃収入が30年以上に亘り一定であるなど非現実的なシミュレーションを提示し、Xに月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させたこと及びその他Xが不動産投資をするに当たっての不利益な事情を十分説明していなかったなど消費者契約法にいう重要事項についてXに不利益となる事実を故意に告げなかったため、Xはそのような事実が存在しないと誤認し、それによってXは契約1及び2を締結したものであるから、同法4条2項による取消しが認められる。

(なお、Xの損害として、支払総額5016万5900円から、受取家賃などの総額319万9180円の差額4696万6711円が認められた。)